田舎育ちの私には、都会の猛暑は耐えられるものではなかった。
ある初秋の昼下がり、30度に達しようかと言う気温の中、私はビルを飛び出した。
営業とかこつけて、涼を求めるためだ。
幸いにも、私の会社の近くには、涼がすぐにある。
涼と言うよりは、周りのコンクリートジャングルと比べても、かなり涼しい場所と言ったほうがいいだろう。
もちろん、今日もその場所に出向き、近くのベンチに腰掛けて、いくつかの書類に目を通す。
国会議事堂を目の前にして、涼しげになった私は、一人つぶやいた。
”永田町って所は、世間と比べて、温度差があるものだ”と。
『進路相談』
君はどう思ってるんだね。
故郷のこととかはともかく、君の気持ちを教えてくれないか。
「僕、都会にあこがれてるんですよ。ええ、こんな奴が都会にそぐわないってのはわかってますよ」
でもね、流れってのがあるから。
君がそう思っているのなら、きっと叶うんじゃないかな。
なによりも、君がそう願うことだ。夢はきっと叶うよ。
「でも、長い道のりですよね・・・本当に行けるんでしょうか」
希望を捨ててはいけないよ。
誰も全力疾走しなさいって言ってるわけじゃないよ。
ゆっくりの時もいいし、時にはスパートする必要もあるし。
どちらにせよ、君が君らしくあるよう、進んでいきなさい。
「わかりました。なんだか胸の中のモヤモヤがすっきりしました。ありがとうございます」
こうして台風19号は、何をためらうこともなく、東京に向かって進路を変えた。
『亭主関白』
「ああ俺だ、俺・・・昨日の話、お前聞いてなかったのか! あのなぁ、今日は職場の飲み会だから遅くなるって言っておいたよな! なのに何だ! 軍資金の手当てもしてくれず、おまけに弁当まで空箱渡しやがって! 一体どういうつもりなんだ! お前の耳はどうなってるんだ! 耳だけじゃねーぞ、頭だ、頭! 脳の構造を疑うぜ! 馬鹿やろう!」
「おい、すごい会話してるな。良くそこまで嫁さんに言えるもんだ」
「電話に出ることができないんだってよ。だから普段言えないことを言ってみただけなんだが」
『カガミ』
「お急ぎのところ、盗撮犯の検挙にご協力をいただき、ありがとうございました。警察を代表してお礼申し上げます」
「いえいえ、それほどでもありませんよ。満員電車では良くあることですからね」
「ご謙遜を。あれだけの満員電車の中で、あの男の手に隠された、隠しカメラを見つけてくださらなかったら、検挙には至りませんでしたからね。正に市民の鑑です」
「じゃあいいですか。急いで仕事に行かなくちゃ行けないんで・・・」
「じゃあ、本題に入りましょう。あなたが隠しカメラを見つけたのはなぜか・・・左手にあった手鏡の件ですよ。なんでそんなものを通勤電車の中でお持ちだったのか、詳しくお聞かせいただきましょうか」
苦情
俺はついに立ち上がった。
ガタついたドアを勢いよく開き、下の階に向かうさび付いた階段を駆け下りる。
そして、ちょうど俺の部屋の真下にあたる、ある男の部屋に向かう。
ドンドンドンドン!
そいつの部屋のドアをいくら叩こうとも、奴は出てこない。
それもそうだ、奴は今一心不乱にエレキギターをかき鳴らしているからだ。
ドンドンドンドン!
いいかげん、そのヘタクソなギターをやめろ!
俺が大声で叫ぶと、ギターの音が急にやんだ。
本当は面と向かって文句も言いたかったが、静かになったからいいだろう。
そう思って、俺はそのまま部屋に戻った。
これだけ脅かしておけば、明日からは静かになるだろうと思いながら。
翌日の夜。
再び騒音が・・・あのギターの音だ!
今度こそ徹底的にとっちめてやる!
そんな事を思いながら、昨日より勢いをつけて階段を駆け下りる。
すると奴は、ドアを開けて、自分から出てくるではないか。
そうか、ついにわびる気にでもなったか、それとも徹底的にけんかを売る気か・・・まあどちらでもいい。
そんな事を思いながら、俺は奴の眼前に立ちはだかった。
”いい加減にしやがれ!”と怒鳴りながら。
奴はぜんぜん反省している顔じゃなかった。
さらに、俺以上の声で言い放った。
「ヘタクソなギターはやめろって言うが、昨日に比べたら上手だろうが!」
大富豪の最期
大富豪はベッドに力なく寝かされていた。
彼の身を案じて、息子や娘たちがベッドの周りを取り囲んだ。
「お父さん、会社のことは長男の僕に任せてください」
「お母さんは、次男の僕がちゃんと面倒見るからね」
「財団のことは、三男の僕が何とかするよ。あの名画は僕が守るから」
「あなたの娘には、こんな立派な跡取りができたのよ。養子にしてこの家を守るわ」
「私にも息子がいるのよ。私の息子も養子にして、グループを盛り上げて見せます」
息子や娘たちがいろいろ大富豪に語りかけている。
それまで口を開く元気もなく、呆然と床に付していた彼は、ようやく口を開いた。
そして、できる限りの声を絞って、こう言ったのだった。
”頼むから、医者を呼んでくれ・・・医者を!”
ヒーロー
私はユウスケくんを叱った。
泣きべそをかいているアツシくんにむかって、謝るように諭した。
「もう、怪人ばっかり、やりたくないよぉ」
アツシくんは精一杯の声を振り絞って言った。
「ね、ユウスケくん。だから、みんなヒーローの役、やりたいんだから・・・今度は、変わってあげてね」
「わかったよ先生、変わってあげるよ」
「そうだね。幼稚園のお約束にもあるものねぇ・・・みんな仲良く遊びましょうって。だからアツシくんにも、ヒーローになってもらってね」
2人は互いに頷くと、2人の帰りを待つ集団の中にタタタタッと駆け戻っていった。
やれやれ、あとは子ども達の自主性に任せよう。私は給食当番の子ども達を数人呼び止めると、その準備を始めた。
そして30分後。
給食時間が近づいたので、私は笛を鳴らした。
「給食ですよ。お部屋に入って、手洗いとうがいをしましょう」
その時、私の後ろに子どもの気配がする。アツシくんだ。
「どうしたの?アツシくん」
「あのね先生、ヒーローだったんだよ」
「そう!変わってもらえたんだね、よかったよかった」
「ヒーローがね、怪人をやっつけたんだよ」
「そう!悪い怪人は、やっつけないといけないよね」
「先生なら、そう言ってくれると思ったぁ」
アツシくんは、血まみれになった手と、先端から血の滴るハサミを差し出し、私に微笑んだ。
世界最強の大統領
彼の名は、波野イクラ。
近隣の軍事大国の圧力に対抗し、この日本を未曾有の危機から救うべく選ばれた、新世紀の大統領。
そして今日も、大統領イクラは戦うのだ。
自身の名誉のため、そして日本国民のために!
「ミサイルの発射が確認されました」
「バーブー」
「大臣、制裁措置を具体的に検討せよ、とのことです」
「・・・」
「そして、早く原稿をまとめ、声明文として発表できるようにしろとも言われています。」
「では、今新潟港にいるあの国の貨客船はどうしましょう」
「ハーイー」
「人道的配慮で、旅客だけ下ろしてやれとのことです」
「・・・」
「ブー」
「それ以降、あの船の入港を半年間禁止しろとも言われています」
「わかりました、大統領。仰せの通りにいたします」
「だそうです。大臣にお任せして、よろしいですね」
「ハーイー」
大統領イクラ。
彼の職務を忠実にこなし、そしてその命令を簡潔に伝えられるのは、内閣官房長官、フグ田タラオしかいない。
ナベツネ思考
「巨人あってのプロ野球だろうがぁ」
「選手の分際で何を言うか、選手がぁ」
「そもそも日本のプロ野球は、巨人無くして伝統も理想もありえないのだぁ」
「取りたいから取るんじゃねぇ、取って欲しいって言うから買ってやってるんだぁ」
「ナベツネって、相変わらずだね。巨人、巨人って」
「ああ、まさにG意識過剰だよ!」
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