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★恋愛模様★


『カタギ』

俺は決心した。ヤクザ稼業から足を洗おうと。
 犯していない罪は人殺しだけ。それぐらいにしておいた方がいい。
 俺にはそう決心する理由があった。

 アイツだけは幸せにしてやりてぇ。
 そう思える女ができた。それだけのことだ。
 他人から見れば”それだけ”かもしれないが、俺にとっては命を賭けてもいい……それぐらいの女だ。

 もちろん、この稼業から足を洗うことは、並大抵のことではできない。
 オトシマエという儀式が必要だ……もちろん、それは済ませてきた。
 小指がないおかげで、ハンドルを持つ右手……いつもと感触が違った。

 マンションに帰ると、人の気配がなかった。
 いるはずのアイツが、どこの部屋にもいなかった。
 どこかに出かけているのだろうと、俺がリビングに入ると、テーブルの上に1枚のメモがあった。
 
 「いままでありがとう。探さないでください」

 アイツの書いた字だった。
 俺は呆然とし、頭の中を駆け巡る”なぜだ?”と言う問いかけに、答えを出せぬまま葛藤した。

 あれから3ヵ月後。
 俺は自分の犯した過ちに気がついた。
 
 ……運命の赤い糸って、確か小指にくくりつけられてるんだったよな……



『カレー』

たまねぎの皮を涙をこらえながら剥く妻。
 夫は言った。今日はカレーなの、と。
 妻はあっさりと”肉じゃが”と答えた。
 ネクタイを外しながら、夫は少しがっかりしていた。

 たまねぎの皮を涙をこらえながら剥く妻。
 夫は言った。今日はカレーなの、と。
 妻は少し申し訳なさそうに”カルパッチョ”と答えた。
 ネクタイを外しながら、夫は昨日よりもっとがっかりしていた。

 たまねぎの皮を涙をこらえながら剥く妻。
 夫は言った。今日こそはカレーなの、と。
 妻は少々苛立ちながら”野菜炒め”と答えた。
 ネクタイを外しながら、夫は少し憤っていた。

 食事時にもかかわらず、外出しようとする妻。
 夫は言った。今日はカレーなの、と。
 妻は不敵な笑みを浮かべながら”そうよ”と答えた。
 ネクタイを外しながら、夫は大喜びした。

「こんなわがままな男とは一緒にいられないわ。一生おわカレーよ。」
 妻はそう言い残し、二度と帰ってくることはなかった。



『妻を大切にする10ヶ条』

誕生日と結婚記念日には2人きりでディナーへいく。

 たまには子どもの面倒を自分が見る。

 奥様たちの会話に立ち入らない。

 ドライブ中のBGMは妻のお気に入りにすること。

 たまには帰宅時におみやげを買ってくること。

 ブランド品を年に数回はプレゼントすること。

 どんな服装でも似合ってると言うこと。

 たまには「愛してる」と口に出すこと。

 妻の前で他の女性を褒めたり興味ありげにしないこと。

 夜のお勤めは妻の求めるがままにすること。



 よし、できた。
 後は嫁さんになってくれる女性を、探すだけだな。



ボトルシップ

 妻は夫に懇願した。
 あのボトルシップみたいな帆船に乗って、のんきに船旅でもしてみたいものね、と。
 だから今度のバカンスは考えておいて欲しい、と付け加えた。

 夫は妻に懇願した。
 お前みたいな金遣いの荒い女と旅なんかしてみろ、のんきなどころじゃねーよ、と。
 だからこれからはお前とは旅になんか行かない、と付け加えた。

 妻は夫に激怒した。
 さんざん私をもてあそんでおいて、魅力が無くなったら捨てるって言うのね、と言い。
 最低だわ、私はあなたをこんなに愛しているのに、と付け加えた。

 夫も妻に激怒した。
 お前こそ、俺のことを愛しているんじゃなかったんだろう、と言い。
 最低だ、お前は所詮俺の財産が目当てだったのだ、と付け加えた。

 妻は怒り狂い、飾ってあったボトルシップを手に取り、夫に投げつけようとした。
 夫はそのボトルシップをすかさず奪い取った。

 その後、妻の念願の旅に出ることに成功した。
 天国行きの旅ではあるが。


永遠の彼女

「そろそろ自慢ばかりしないで、お前のカノジョ、早く紹介しろよ」
「そうしたいのはやまやまなんだが、遠距離なんだ」
「遠距離? お前のようなインドア派がどこでそんな遠くの女と知り合えたんだ? そうか・・・インターネットってのは、こういう時に便利なもんだ」
「ネットは使ってないぞ。そんな恋愛とは次元が違うんだよ」
「そこまで言うなら、せめて声だけでも聞かせて欲しいもんだな、お前のカノジョの」

「声ならお安い御用だ。このディスプレイ見てろよ。二次元だけどかわいい声の俺好みの彼女がすぐに出てくるから」


恋は駆け引き

「出会いがないんですよ」
「そうなんだぁ・・・でもいつか出会いはあるから」
「そう言われてきて、何年経つと思うんです・・・今年で38ですよ」
「私だって出会いがなくて・・・今年で36よ」
「出会いねぇ・・・ほんと、あるんでしょうかね」
「私が言うのも何だけど、なにげなーく乗ってるバスや電車とか、今日からはいつもより見回して見たらどう? きっと出会いがみつかるかもしれないわ」
「そうかなぁ」
「今日の帰り、目の前にいきなり運命の人が!ってなるかもしれないじゃない」
「運命の出会いねぇ」
「そう、目の前にね」

「あ、確かに」
「えっ(笑)」


神様プリーズ!

 これもだめ。
 さっきから、メールを書いては消したり。消しては書いたり。
 普段仕事してる時みたいに、当たり障りのない文書なら書けるのかもしれないけど、今日の私はかなり本気。

 だって、告白・・・するための、大事なメール。
 ようやく同僚の山野くんから聞き出した、あの人のメアド。
 単純に”明日待ってます。”と書けばいいのに、それだけじゃなんだか思わせぶりだし・・・とか悩んでるうちに、またメールを消しちゃう。こんな臆病な自分、いやだぁ。

 私は思わず携帯をベットに向かって投げた。
 すると、思わず勢いがついて、ベットを超えた携帯は、そのまま出窓の縁にあたって鈍い音を発する。
 あちゃー。ついに壊しちゃったか・・・ますます、明日の作戦どころじゃなくなっちゃう・・・

「痛いじゃないですか」

 私は黒く濁った液晶が痛々しい携帯を見つめる。
 確かに、ここから・・・この携帯から、声がした。
 もしかして、投げた拍子にどこかに掛かっちゃったのかしら?
 
「もしもし、もしもし」
「ああ、早紀子さんですね。大野早紀子さん」
「え、ええ・・・ですけど」

 私は早く詫びようと思った。
 次の瞬間、液晶画面がいきなり光り始め、あたりを煌々と照らした。
 目がくらんで、見えない。

「おどかして、すみませんね」
 
 声のする方へ身体を向け、ようやく目を開ける。
 目の前には、いかにも執事、と言った出で立ちの、ブレザー姿に身をまとった長身の男が立っていた。男はメガネの奥に優しげな微笑みを浮かべて、私を見つめていた。

「私はユーラシア。天空からあなたのために参りました」

 ???
 さっぱり意味がわからない。
 携帯から出てきた? 神様? どういうこと?

「さっぱりご理解できていないご様子・・・いいですか、あなたはご自身の携帯で、私ども神の世界に電話を掛けられたのですよ。それで私が人間界に舞い降りてきたわけです」
「・・・さっぱり、意味がわからないわ」
「だって、さっき*514って、ダイヤルされたでしょ?」
「そりゃ偶然・・・なのかもしれないけど、それって何かの専用ダイヤルだったりするわけ?」
「514・・・コイシ、ですね」
「コイシ・・・苦しいけど、まあ、読めなくもない」
「514にTELしたわけです、早紀子さんご自身がね」
「・・・まさか・・・”コイシTEL”とでも・・・」
「早紀子さん、あなたは神の心が読めるのですか!」
「読めんわい!」
 どうせ読めるなら、神の心よりも、ユウスケくんの心が読みたいわよ! 私は思わず、恋してるあの人の名前を、ストレートに声に発してしまっていた。

 ユーラシアはずれ墜ちそうだったメガネを掛け直すと、自信ありげにニヤリと笑った。
「ユウスケくんですか。おやすいご用です」
「・・・何が?」
「早紀子さん、あなたはコイシTELに電話をされ、私を呼び出された・・・すなわち、恋愛成就のために私が招かれたわけです!」
「!!!」
「そうとなれば話が早い、私も早く勤めを終えて帰還せねばなりませんから・・・」
「ちょ、ちょっと、その長い杖なんかで、何をしようとしてるのよ!」
「簡単なことです。まず、そのユウスケくんをここに瞬間移動させて、あなたの顔を見つめさせながら、一生解けない恋の魔法を・・・」
「ま、待ってよ! そんなんじゃあ、私何も悩む事なんて・・・」
「無くなりますね」
「・・・魔法は、いや」
「おや、人間にしては、なんと謙虚な」
「だって・・・いくら自分に自信がないからって、魔法に頼って・・・それにいつか魔法だって解けちゃうかもしれないんでしょ、その時のことを思ったら・・・」
「魔法は解けやしませんよ。ま、100%とは保証できませんけど」

「ゆ、ユーラシアさん」
「なんです、早紀子さん」
「あなたの務めって、私の恋愛の手助けをする事よね」
「まあ・・・そうと言えば、そうです」
「だったら・・・魔法を掛けるのを、私に掛けてよ!」
「あなたに? 何の魔法を掛けよと仰せなのですか?」
「・・・勇気」
「・・・??」
「ユウスケくんには、私の言葉で思いを伝えたいの。だから、2人きりになっても、おどおどせずに、自分の気持ちを言える・・・そんな勇気の沸いてくる魔法!」
「・・・」
「え? だめなの?」

 ユーラシアは杖に顎を乗せて、早紀子を見つめる。
「早紀子さん、あなたは本当に自信がないのですね」
「あったら・・・苦労しないわよ」
「私の能力であれば、早紀子さんの仰せのように、勇気を授けられることもできます・・・ですがね」
「・・・何?」
「笑ってください。ニコって」
「えーっと・・・こう?」
「あと、失礼ですけど、スリーサイズは?」
「!!」
「じゃあ魔法で調べ・・・」
「どっちにせよバレるんじゃない!」
「あ、日本人にしては胸、大きいんですね。それに、よくくびれてますよね」
「結局許可なしで調べやがったか・・・」

 ユーラシアはメガネを外し、その汚れを布で拭き取りながら、早紀子に語りかけた。
「顔は可愛い、背もちょっと高い、スタイルは良し、性格も可愛い・・・これだけそろってて、何で今さら不安になるんでしょうかね、あなたみたいな女性が」
「え・・・」
「私はまだユウスケさんを見たこともありませんが、あなたみたいな女性をフッたとしたら一生後悔しますよ。それに、あなたがフラれるのがおかしいんじゃなくて、あなたをフってしまう男の方が悪いんですよ。見る目がないってわけですよ」
「・・・」
「あまり励ましになりませんけど、それぐらいあなたは魅力的な女性なんです。だから私の魔法なんか本当はいらないのでしょう・・・だけど、あなたの願いと言うことならば、お掛けしようと思いますが」

 早紀子はユーラシアを見つめた。
 そして、何か思いついたかのように、彼に語りかけた。
「勇気の出る魔法、やっぱりいいです」
「そうですか。あなたならもっと自信を持っても大丈夫ですよ」
「そのかわり・・・別の願いをさせてもらいたいの」
「別の願いですか・・・私は恋愛専門の神ですから、金とか権力とか、そういう俗物的な願いじゃなければ、なんとか上に掛け合ってでも、あなたのために役立ちましょう」
「ありがとう・・・じゃあ」
「じゃあ?」

「私のためだけの神様に、なってくれないかしら?」


オモイデカメラ

 麻衣は嬉しそうな顔をして、そのカメラをバックから取り出した。
「買っちゃった。オモイデカメラ」
 僕は多少喜んだふりをしたものの、内心ヒヤヒヤものだった。
 なんで、それをここで使おうと思うわけ? 僕は単刀直入に聞いた。
「だって、ここはあなたの生まれ故郷でしょ? 昔、やんちゃだったころのあなたと、写真に写りたいわけ! わかってくれるかなぁ・・・想い出までも共有したい、恋する女の気持ち!」
 麻衣は八重歯を見せながら、小悪魔のように笑った。

 オモイデカメラ。
 それは、被写体となった人間に関する想い出・・・それが物であったり、人であったり・・・とにかく、それらの想い出たちが様々な写真になって撮影されるという機能を備えたカメラだ。
 例えば、30年前に始めた泳いだ海で撮影したら、今の自分の横に、少年時代の自分が写る。
 亡き母親の自転車を傍らに撮影したら、母親の幼少期の姿が写る。
 団塊世代がだんだんと年老いて、懐古主義になってきた頃に発売されたこのカメラは、若者世代にも好評を博するようになった。

 なぜ自分がヒヤヒヤしているのか。
 それは、今いる場所・・・北海道のど真ん中で、草原と山々をバックに、青々とした芝生のうえ。
 そこは幼少期を過ごした想い出の場所でもあり、若かりし頃、上京を機に別れてしまわざるを得なかった、アヤとの想い出の場所でもあった。
 想い出を撮影されるのか。よりによって、婚前旅行でやってきたこの場所、この瞬間で。

 写真にアヤが出てこないことを祈るとともに、何とかしてこの場所を離れようと思った。
 そう、この場所で撮影することだけは避けよう。僕は傍らでスタンバイが完了している麻衣に諭した・・・一緒に写りたくても、シャッター押してくれる人がいないとね・・・ほら、セルフタイマー機能なんて、いまどきのカメラにないだろ? と。
「あ、でも・・・あそこ・・・誰かいるよ! えーっと、あのー、すみませーん!」
 麻衣が駆けだしていく方向に、数匹の山羊を連れて歩く女性の姿があった。
 最近、こういう観光客がたくさん来るんでね、シャッター押すぐらいなら、慣れてるよ・・・そんな女性の声と、喜ぶ麻衣の声。
 その声が次第近付いてくる。僕の心臓は次第に鼓動を早める。
「じゃあ、ここに2人で並びます! 後の山をバックに、おねがいしますぅ!」
 麻衣は僕の左腕に自分の右腕をとおし、さっきと同じ、小悪魔の笑顔。

 パシャ。
 もうだめだ。
 
 シャッターを切ると同時に、麻衣はカメラに向かって駆け出す。
 もうどうにでもなれ。そんな気持ちで僕は煙草に火を付けた。
「見てみてー、丸坊主のゆーくんだよ、なんだか、かわいー!」
 ・・・丸坊主。
 ・・・そうか、アヤの姿は、写らなかったんだ。
「ほら、見てみろ、ほらほらっ!」
 麻衣が差し出したカメラの液晶画面には、2人の姿。その傍らには丸坊主頭の自分が写っていた。
「こういう写真が撮りたかったんだよ! ありがとう、おねえさん!」
 麻衣は撮影してくれた女性に向かって、何度も手を振る。
 遠くで見たときはおばさんかと思ったけど、近くで見ると自分と同じぐらいの歳の女性だった。
 麻衣があまりにもはしゃぐので、僕は丁寧に女性に会釈をして、撮影のお礼を述べた。
 女性は帽子を深く被りなおすと、再び山羊たちのいる草原に駆け出していった。

 僕の横をすれ違うとき、女性はぽつりとつぶやいた。
「”オモイデカメラ”って、撮影する人が気持ちをこめても、ちゃんと撮影してくれるんですね」
 
 僕は何気なくオモイデカメラを手に取った。
 駆け出して去っていく女性をしばし見つめ、誰に言われるまでもなく、その姿を撮った。
「ねぇ、何撮ったの、何?」
 後の山。それと、あそこのラベンダー畑。そう言ってうそぶいておいた。
 麻衣は何度か”あやしい”を連発していたけど、やがて何も言わなくなった。

 僕はわかってた。
 さっき、あの女性を撮った時の写真。
 きっと、18歳の頃の、セーラー服姿の誰かさんが、同じように写ってるんだろうって。
 あの時別れを告げたとき、”東京なんか行かないで”って、泣きながら。
 この草原を駆け抜けていった、あの時のあなたの姿が、きっと写ってるって。


行列のできる結婚相談所

 当結婚相談所にようこそ。
 ええ、ええ。そうですね。
 確かに、40歳が目前ともなると、結婚って脅迫概念のように襲ってきますものね。
 ええ、ええ。おっしゃるとおりですね。
 あせって結婚したって、何もいいことなんかありませんよね。
 で、どういう男性をお好みですか?

 はいはい。
“家事や育児を分担してやってくれる人”
“年収が少なくとも一千万以上ある人”
“プライベートと家庭は別・・・一人で過ごす時間を与えてくれる人”
 なるほど・・・

 わかりました。
 え、候補がいるのかって?
 候補はすぐに見つからないかもしれませんが、候補を探すコツはすぐにお教えできますよ。

 簡単なことです。
 ここに来る前に、美容整形とカウンセリングを受けてみてください。それで十分です。


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