
『世界の掟』
俺は猛烈に激怒した。
なんだなんだ、この仕打ちは。
アンタ、この件に関して、本気なんだろうな?
そもそも、俺に何を求めてるんだ?
もちろん、今訪れている難題を、解決して欲しいんだろ?
そりゃあ俺だって、事の重大さはわかってるさ。
わかってるから、激怒もするんだ。
これから俺が汗水流して難題の解決のために努力しようってのに。
お前らは、これだけのこともしてくれないわけ?
簡単なことじゃん、俺が言ってること。
そう、俺が難題を解決できるよう、支援してくれればいいだけじゃないか。
それなのに、お前らはなぁ・・・
「すまない。君の言うこともわかる。でもこれが、この世界の掟なんだ」
王様は申し訳なさそうな顔をして、勇者に50ゴールドとどうのつるぎを渡した。
『個人情報』
「今回の個人情報、大量流出の原因を教えてください」
誠に申し訳ありません。
商品の輸送中、持ち歩いていた顧客リストを紛失しました。
「輸送中とのことですが、管理に問題は無かったのですか」
長年、同じ方法で輸送を行ってきました。
特に事故もなく行えておりましたので、問題は無いと思っています。
「全世界の市民、約2億人分の個人情報が流出したわけですが」
誠に申し訳ありませんでした。
取り返しのつかないことをしたこと、この点については深く反省しております。
「責任論が出ていますが、処分等はご検討でしょうか」
もちろん責任を取るべきであります。
我々に期待してくださっている方々には申し訳ないとは思いますが、来年冬の営業については、自粛を検討しています。
「それでは、子どもたちの夢はどうなってしまいますか?」
もちろん、サンタクロースでありますから、それは気になります。
ですけども、今回の事故について、責任の取り方を考え、実践せねばいかんと思っております。
『胎教』
「胎教は重要だからね」
「あら、あなたにしては珍しいじゃないの」
「胎教にはクラシック音楽がいいってきいたんだけど・・・よくわかんなくてね、クラシックは」
「私もそんなにわかんないわよ」
「だからね、外国のCDコーナーを見て、輸入版でこれならって思った盤を買ってきたわけよ」
「へぇ、ジャケットは結構、落ち着いていい感じじゃない」
「早速あけて聞かせてみよう」
「あなた、これ”葬送行進曲”って、ルビが振ってあるんだけど」
『賽の河原』
さあ、ようやくここまで積んだぞ。
これで、お許しが出れば、ご褒美がもらえるはずだ。
いかがでしょうか。
「いいや、だめだ。そこの奴、全部無くしてしまえ」
なんだって。
ここまで一生懸命がんばったのに。
あーあ、今までの苦労は全部台無しか・・・
そう思っている矢先、悲しんでいる僕を、誰かが引き摺り倒す。
山田隆夫は不敵な笑みを浮かべて、座布団9枚を持ち去ってしまった。
ご利用は計画的に
「いらっしゃいませ。本日は初めてのご来店ですか」
「まあ・・・そうなんですけど」
「それでは早速ご説明をさせていただきます。当社は”ご利用は計画的に”をモットーにしておりまして、みなさまのライフプランに合わせた返済プランをご提案し続けております」
「はぁ・・・それはいいんですけど」
「よろしゅうございますか。それではお借り入れのご希望がございましたら、早速承ります」
「トイレ貸してくれませんか・・・そのつもりで入っただけなんです」
影武者
ズバッ!
・・・ドスン!
殺ったぞ。
忍びは、自らの手に残る感触を感じながら、使命達成を確信した。
「はははは、馬鹿な忍びだ!」
忍びが満足している時、突然ふすまが開いた。
そこには、先ほど殺ったはずの殿様が、威風堂々と立っている。
「愚か者め! 影武者がおると言うことも気づかぬのか!」
影武者は高らかに笑い、自らの刀を抜き、忍びを始末しようとする。
「おい! お前が何でそこにいるんだ!」
別のふすまが開き、そこにはもう1人の影武者が。
「今夜は俺の当番だったはずだが、何でお前がそこにいるんだ!」
「おかしいな、来週の月曜日と交代しようって言ったのは、お前じゃないか!」
ガラリ。
天井から1人の男が飛び降りてくる。
「おいおい、その約束をしたのは俺とのはずだぞ。仮眠中ってのに、うるさくて眠れやしない!」
3人目の影武者は、言い争う2人の影武者の間に割って入る。
不思議な沈黙が流れた。
忍びが身を起こし、先ほど絶命した男の様子を探り始める。
その様子を、3人の影武者が見守る。
そして、あることに気がついたらしく、3人そろって忍びを罵倒する。
「馬鹿め! 影武者はこっちだ! そっちは本物よ!」
ルール
警察は本腰を入れ始めた。
これ以上治安を乱すわけにはいかないと、法律を厳しくし始めたのだ。
シートベルトを着用しろ。
後部座席もこれからはきっちりとシートベルトをつけろ。
バイクの2人乗りは禁止。
自動車の免許更新は無事故無違反のものに限る。
どんな犯罪を犯したものでも市民権を剥奪する。
犯罪を犯しそうな奴は最初から隔離する。
道に咲くきれいな花を勝手に取っても、即逮捕。
そして日本から犯罪は消えた。
同時に警察署も無くなり、彼らの存在は世の中から消えた。
おもてなし
「我が国へようこそ。先日はいろいろご歓待をいただいて感謝しております」
大統領は、1ヶ月前に歓待を受けた礼を述べた。
総理はその礼に返礼し、奨められるがまま、椅子に腰掛けた。
「両国はさまざまな諸問題を抱えていることは承知しています。しかし、今夜は別です。我が国の粋を凝らした料理と芸能をご覧いただきたい」
今日は心を通わせる日にしましょう。
大統領はそう締めくくると、傍らにいる秘書に目配せをして、ディナーの開演を告げた。
めったとない食材をふんだんに使った料理。
年代もののワインたち。
宴を彩る、ヴァイオリンの調べ。
大統領が言うように、まさにこの国の粋を堪能できる酒宴だった。
宴の終わりが近づいたころ、総理が重ねて礼を述べた。
大統領は軽く笑みを浮かべながら、総理に答えた。
「あなたの国には”おもてなし”と言う言葉があるそうですね。客人を歓待する意味だとか。先日受けた”おもてなし”を、我が国に来られた折に、お返ししただけのこと。礼には及びませんよ」
その言葉に総理はいたく感激し、明日のガス田交渉はスムーズに解決するだろうと、心の中で安堵した。
宴の後、秘書は大統領に笑顔で語りかける。
「大統領、我々の思惑どおりですね。奴らは完全に警戒心を無くしています」
「そうだな。明日の交渉は我々のペースだ」
「それにしても、”おもてなし”作戦がここまでうまくいくとは」
「”表なし”・・・裏を悟れぬようでは、あの国はしょせん二流国止まりだ」
こだわり
「朝は米を食わないとだめなんだ。あと味噌汁も譲れないな」
「へえ、君らしいこだわりじゃないか」
「嫁の実家が新潟でね。ササニシキも、コシヒカリも送ってもらえるんだよ・・・ただでね」
「都会暮らしでそんな恩恵はなかなか無いだろうね」
「そうなんだが、僕はいかんせん横着者でね・・・米を洗うとか言うのがめんどくさいんだよ。無洗米にして欲しいと思うんだけど」
「何言ってるんだ。君の米はとっくに無銭米じゃないか」
企業戦士
赤提灯がぶら下がる、ガード下のおでんや。
そこでは、いつものように企業戦士と呼ばれている男たちの悲哀が繰り返されていた。
「ストレスがたまって仕方がないんですよ」
親父に返答を求めるでもなく、男はつぶやいた。
「課長も部長もね、私より10も若いんですよ・・・まぁ、それなりに賢いんだろうと思うんですけど、人情味がない・・・昔はなんですよ、パソコンの1つも使えない私が、目の前で困っていても、すぐに同僚が何とかしてくれたもんです・・・電話だってそうですよ。私の顧客からクレームが来たときだって、私が困るかもしれないからって、代わりに電話を取ってくれる、頼もしい係長がいたものです。あとは細かいことになりますけど、私がしでかした些細なミスもね・・・発注ミス、数量ミス、書類のミス・・・55まで働いてりゃいろいろありましたけど、そう言うミスもね、みんなでフォローしてくれたもんです・・・そう言う時代じゃ、無いんですかねぇ・・・平成の世になって、なんだか世知辛くって仕方がないですよ。正直、息苦しいですわ・・・」
親父は心の中でつぶやいた。
”おまえ、よくリストラされてないな”